芦名くんの隠しごと




「ふ、そんなに驚く?」


「驚くよ……!急に声かけてくるんだもん」


「はは、ごめんごめん」


そんな、まったく悪く思ってなさそうな感じで謝られても。


……許しちゃうけどね。そもそも怒ってはなかったし。


「クラスの奴ら、もう帰ったからね。そろそろ行こう」


「う、うん」


急いで開いていた本を閉じ、カバンを手にして立ち上がる。


「野乃、そんなに慌てなくてもいいよ」


「あっ、うん……!大丈夫だよ!」


こんなところまで気を遣わせてしまって、なんだか逆に申し訳ない気がしてくる。


芦名くん、もっと私に気を遣わなくていいのに。……なんて、急には難しいか。


「野乃、大丈夫?ボーッとしてるけど」


「う、うん!ごめんね、大丈夫だよ」


「もしかして、藍に会うの、少し緊張してる?」


「……そ、それは、まあ……」


“藍”
頭ではわかってる。彼女は芦名くんたちの“仲間”なんだってこと。


だけど、自分以外の女の子の名前を親しげに呼ぶ芦名くんを見ていると、少しモヤッとする。


わかってる。


こんな自分勝手な気持ち、誰にも知られるわけにはいかない──。