だけど、相手は芦名くん。


“抵抗できるものなら、してごらん”
そんな芦名くんの声が、頭に響いた気がするくらい、力を強めて私を抱き締める。


……勝てるわけないのに。


芦名くんはどこまでも、大人げない人。


「……っ……はぁ、」


やっと唇が離れた頃には、私はもうヘトヘトで。


それなのに芦名くんは、余裕しゃくしゃく。


平気そうな顔で……むしろ満足げに微笑んで、少し高い位置から私を見下ろす。


「……っ、なんで……こんなこと……。ひどいよ」


涙が溜まっているのなんて気にする暇もないまま、私は芦名くんに尋ねる。


必然的に、背が高い彼を見上げる形になってしまうから、涙が流れてきそうで視界が危うい。


「ひどい?嫌じゃなかったんでしょ?」


「……でも、」


乙女のファーストキスを、あんなにあっさり奪うなんて。


「それに、俺からしたら野乃の方がひどいよ?」