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「水上さん、ちょっといいかな」


そう言って芦名くんに呼び出されたのは

──屋上。


昨日あれから、なんやかんやでみんなと話していたら、夜の11時を過ぎていて。


芦名くんは用事があったらしく、帰りは夏樹くんに送ってもらった。


「……ここまで来ればもういいよね」


バタン、と少し乱暴にドアを閉められたらここには、

──私と芦名くん、二人っきり。


「あの、芦名くん。鍵、なんで──」


持ってるの、と聞こうとしたところで、芦名くんが振り返った。


ドクン、と胸が鳴る。


彼はすでに、“人気者の芦名くん”の顔ではなく、(かげ)りを持った顔をしていたから。


「……楓」


「あ、そうなんだ……」


無機質な声に反応するのに、少し怖気づいた。


温度を感じられない芦名くんは、やっぱり未だに少し怖い。


「野乃、これ」


音もなく近づいてきた芦名くんが渡してきたのは、

──鍵と、グシャグシャになった手のひらサイズの紙。