「ありがとう」

メガネをくいと上げ、藍は微笑む。藍が黒髪を耳にかけると、大河の顔はますます赤くなる。

「河野くん?どうしたの?」

藍は「大丈夫?熱中症かしら?」と首を傾げる。大河は、「な、何でもナイデス……」と肩を落としながら藍に背を向ける。

「ドンマイ」と大河が、朝子と監察医の田中聖(たなかひじり)に言われるが藍は何のことだと首を傾げるばかりだ。

その時、扉が開いて研究室の所長・春川正人(はるかわまさと)が入ってきた。

「皆さん、お疲れのところ申し訳ない。先ほど如月刑事から電話があり、現場に来てほしいとのことです」

この研究所では、警察から依頼が来ることも珍しくない。そのため、藍たちは自然と警察官の知り合いができていく。

「電話をかけてきた如月大輔(きさらぎだいすけ)刑事って、藍の元カレだよ」

朝子が大河に言うと、「ええ!?そ、そうなんですか!?」と誰が見ても驚いているとわかる反応を大河は見せる。