あなたを好きだった頃、

"いつもはこんな顔してるんだ。"
 知らなかった西原くんの表情が私に刻まれた。少しだけ近づけた気がした。私の中で西原くんのスペースがどんどん大きくなっていく。

 私はしばらく西原くんを見つめたまま戸惑っていた。そんな私を見て西原くんは不思議そうにペンケースを「ん。」と差し出してきた。それで我に返って急いで西原くんからペンケースを受けとる。

「…ありがとうございます。」

 もう恥ずかしくて顔が見れなかった。私は下を向いたまま精一杯の声を絞り出して、体育館へと走った。
 声が震えた。上手く言えなかった。変な顔してたかな。走って逃げるって「変なやつ」って思われたんだろうな。
 西原くんから離れた途端から色んな不安が一斉に襲ってくる。こんなに私ってネガティブだった?ウジウジしてた?違う。西原くんに嫌われたくないと思ってからだ。自分が自分じゃないくらい色々考えて、不安になって。でも近づきたいって矛盾するから気持ちがぐちゃぐちゃになる。