私はローファーを脱いであーちゃん達の隣に並べた。さっちゃんが時計を見て「あと3分だよ!」と焦った。それにつられて私も体育館シューズに履き替える手を急いだ。焦っている時に限って上手く履けなくて、片足立ちになっていた私はよろけた。それと同時に脇に挟んでいたペンケースが床に落ちた。後ろからは私達と同じようにギリギリに来た男の子たちの声が聞こえた。
ーやばい、後ろ詰まっちゃう。急がなきゃ。
そう思って、床に落ちたペンケースを拾おうとした時だった。
靴を履き終えた私の横から「はい」と私のペンケースを持った手が見えた。私は慌てて後ろを振り向く。
その瞬間、少しだけ時間が止まった。
ほんの一瞬、周りの音も、景色も、風も全てがぼやけたまま止まったような気がした。
私の目の前には、体育祭の日からずっと遠くから見ていたあの人が立っていた。ペンケースを拾ってくれたのは西原くんだった。
近くで見た西原くんは思ってたよりもずっと背が高くて、近くで見た腕は思っていた何倍も男の子で、はじめてみたときの笑顔とは違ういつもの表情で立っていた。
