あなたを好きだった頃、

 それだけでいい。
 それだけでいいはずだ。
 それだけでよかったはずだった。

 それだけでよかったはずだったのに、2人の言葉がぐるぐるとずっと離れなかった。地理の授業を受けながら私はずっとさっきの言葉の答えを探していた。
 ”西原くんのことが好き”
 そう考えると嬉しい。だけど苦しい。

 恋が苦しいことだと知っている。

 昔、恋で痛い思いをした。
 その時あーちゃんとさっちゃんは猛反対して必死で止めてくれた。だけど、否定されればされるほどその人を好きになってしまった。みんなに否定されるその人の"たった一人の理解者"になりたかった。 でもそれは、きっとその人が好きなんかじゃなくて誰かにとっての"たった一人の私"になりたかっただけだった。だから傷ついて3年に上がる前まで引きずっていた。「もうこんなつらい思いをするのなら、恋をするのはやめよう」と自分に約束をしたのもその時だ。

 辛い時期をずっと一緒にいてくれた二人が「西原くんと出会って変わった」と言ってくれた時嬉しかった。さっちゃんが「もう辛い顔を見たくない」と言ってくれて嬉しい。
 だからこそ、西原くんのことは大事なままでいたい。幸せなままでいたい。でも、もし”好き”になってしまったら今の幸せが恋の苦しさに変ってしまうかもしれない。それなら好きな人未満でいい。