「最初は百文字を目指しましょう」と先生。
わたしが打てた文字数は十一。わたしって、どこにいても落ちこぼれ。
さっそくやる気を失って、生徒の観察で時間をつぶした。隣の席のおばさんは、鼻をグズグズいわせる鼻炎さん、斜め前のおばさんは少々目立ちたがり。先生へのくだらない質問が多い。後ろの席の人は二十代半ばくらいかな……メイクが濃い。けれどスリム。でもおっぱいはまな板。
「末吉さんはタイピング数が多いですね」
先生のお褒めの言葉をもらったのは誰? 振り返って見てみると、そこには鶏ガラ女がいた。
「明日にはさっそく目標に達するかもしれません」
「大げさです」と鶏ガラ末吉。「今朝指を脅してきたので」
先生と何人かの生徒たちが笑った。ツマンナーイ。
学校なんてつまらない。わたしが一番年下で、同級生がおばさんなんてすごくおかしい。こんなところに通うくらいならバイトをしてる方がまし。
家の中は、学校の雰囲気とはちがって、あいかわらずシーンとしている。誰も迎えてくれない。冷蔵庫やテーブルは、まったく口をきかない住人みたいだ。
眠りに落ちる寸前も、目を覚まして一秒後にも、スマホは鳴らなかった。
どうして行きたくもないのに早起きなんかしなくちゃいけないの? しかもランチを買ってかなきゃいけないから、早めに家を出なきゃいけない。
