ただ愛されたいだけなのに



「じゃ、いただきます」
 白田はチーズケーキを選んだ。

 甘い。マロン独特の舌触りは苦手。外気が低すぎて、鼻が麻痺して香りがわからない。

 わたしはまたもや涙が出そうだった。こんなところでわたしは何してるんだろう。正紀はなにしているの? きっと、わたしから解放されて、楽しいクリスマスを過ごしてるんだ。

 帰りの車内は無言だった。重苦しい空気は流れていない。でも、白田はどう思ってるんだろう。白田はなぜ、いきなり辞めていった元従業員に、親切にできるんだろう。
 この人を好きになれたらいいのに。絶対に結ばれることがない人を好きになれば、無駄な期待も、嫉妬も、たいしたことなさそうなのに。

 わたしは近くのコンビニでいいと言ったけれど、白田は家まで送ると言ってきかなかった。アパートまでおくってもらい、ケーキの入った箱を持ち上げてお礼を言った。
「ありがとう。わたし、何にもプレゼントできないけど……」

「いいんだ。それより……」
 白田はほほ笑んで、ため息をついた。
「ちゃんとご飯を食べてるようで、よかったよ」

 今その話? 
「ちゃんと食べてますよ。人並みに」
 わたしは嘘をついた。クリスマスに説教されちゃたまんない。
「そうか。ならいいんだが……そうだな」
 白田はなんだか決まり悪そうに、モゴモゴと口を動かしながら、苦笑いを浮かべた。
「気が向いたら、店においで。元従業員サービスで、安くしてやるよ」