豚は白田だった。笑顔でターキーを抱えて手をふっている。
「偶然だな。クリスマスの買い物か?」
「まぁ……そんなとこですかね」
わたしは曖昧に返事をして、豚の群れから遠ざかった。ありがたくないことに、白田がわたしの分のターキーも持って来てくれた。
「どうした? クマができてるぞ」
わたしは商品が並ぶラックの柱を鏡にして、自分の顔を確認した。ウォータープルーフのマスカラは健全だ。けれどアイシャドウがまぶたの下に滲んでいる。こんな日に限って、ブラウンのアイシャドウ。とことんついてない。
「これから友達とパーティーでもするのか?」
白田もクリスマスの幸せ者の一人だ。こっちの気も知らないで、バカみたいにヘラヘラ笑ってる。
「いえ……一人で優雅にすごします」
優雅? ご冗談を。
「田端さんが職場の人間とパーティーするらしいぞ」
白田がいたずらっぽく笑った。わたしがお呼ばれじゃないことを知っている笑顔だ。
「飛び入り参加して、ぶち壊してくるのも楽しいかもしれないぞ」
「最悪なクリスマスになります」
もうすでに最悪だけど。
「そうか……俺もそろそろ行かないと」
「よいクリスマスを」
わたしは作り笑顔で手をふった。
「よいクリスマス? 俺はこれから仕事だよ。稼げるけどね」
白田は肩をすくめた。
「え? そんな、最悪ですね」
わたしは一歩一歩後ろに下がりながら返事をした。はやく家に帰りたい。
「稼ぐことしか頭にないもんでな」
白田が立ち止まった。つられてわたしも立ち止まってしまった。
