明日は使うはずだった旅費で買い物でもしよう。好きなものをうんと買ってしまおう。ううん、やっぱり今からつかってしまおう。どうせわたしには、先を急がなきゃいけない用事なんて無いんだから。
わたしはショッピングモールに入った。ここにも人がわんさか。悲しそうな顔は一つもない。
午後十九時四十八分……ファッション店が閉まる前に、はやく。ずっと欲しかった、ベージュカラーのファー付きポンチョも買っちゃおう。八千円もしちゃってるけど、そんなのもうどうだっていい。ブーツも買おう。かわいい、フリンジブーツ。アクセも、バッグも、欲しいものは全部——。
両手に袋を抱えるのは、ずっと憧れてたはず。なのに涙が止まらない。欲しいものは買った。家電製品抜きで合計金額が五万円を超える買い物なんて、滅多にないじゃない。なのにどうして?
わたしは下を向いた。こんなに幸せそうな人たちの真ん中で、涙を流してジロジロ見られたくない。みんなのクリスマスが不幸な日になっちゃえばいいのに。
エスカレーターで一階におりて、食料品店に向かった。大好きなケーキとシャンパンを求めて歩く。ターキー売り場に群がる家族に足止めをくらって、かなりイライラする。この光景、どこかで見たことがある。あ、《千と千尋の神隠し》だ。千尋のパパとママが豚になるところ。豚たちを睨みつけていると、みんなより頭一つ分背が高い豚と目が合った。
「あれ?」豚が言った。「夢か?」
