ただ愛されたいだけなのに



   —メリークリスマス、わたし—


 十時三十分——本当なら、今頃飛行機に乗っている時間だ。でもそれはただの未定で終わった。わたしは街のカフェで、クソ不味いブラックコーヒーを飲んでいる。いまだにダイエットの癖が抜けないせいで頼んだけれど、こんな苦いの、飲めたものじゃない。

 ガラス窓から見える外は、クリスマスカラー一色。カフェの内装すらも、忌々しい赤と緑でコーディネートされている。

 惨め、孤独、悲しい……正紀に会いたくないと思われていた。じゃあどうして? どうしてわたしと付き合ったの? 会いたくないのに、恋愛として好き、なんてことある? わたしには考えられない。

 飲めないブラックコーヒーをゴミ箱に入れて、カフェを出た。
 通りを歩く人たちはみんな笑顔で、カップルは手を繋いで二人の世界に入りこみ、仕事帰りのサラリーマンは先を急いでいる。

 正紀から謝罪のメッセージがきてないかなと、息をする感覚でスマホを開いているけど、そんな期待は見事に打ちひしがれ、イルミネーションが輝く花壇にスマホを埋めてやりたくなる。このまま家に帰る? 一人きりで部屋にこもって、ノンアルコールのシャンパン片手に泣き通す? それもありかも。

 そもそもバイトを辞めた意味も今じゃ理解できない。あの白田なら、旅行のためと言えば三日間の休みくらいくれそうなのに。