ただ愛されたいだけなのに



「なんですか?」
 わたしはふり向いてあげた。もしも小言を言ってきたら、来月名指しでクレーム出してやる。
 田端さんはいつもの鋭い目つきでわたしを見おろした。
「早かったわね。まぁ、あなたにしては長続きした方なんじゃないかしら」
「そうですね」このクソ女。
「これからどうするかは知らないけれど——」
 田端さんは、とんでもない爆弾を落とそうとしているみたいに、大きく深呼吸をした。
「体は大事にしなきゃ」

「え?」
 信じられない。まさか今のって、気遣い?
「あの、わたしに言ってます?」

「あなた以外に誰がいるの? 頭と心は鍛えなおした方がいいと思うけれど、体は叩いて鍛えるものじゃないのよ」
 田端さんはそう言うと、回れ右をして控え室を出て行った。

 わたしが突っ立っていると、田端さんと入れ替わるように白田が入ってきた。
「どうかした?」
「あ、いや……田端さんが、なんか宇宙語を話していたから……」
 わたしは荷物の整理に取りかかった。
「ただの鬼ババアかと思ってたけど」
「あなたの脳みそはとてつもなく幼稚よ!」
 白田の後ろから、去ったと思った田端さんが顔を出した。怒りで顔が真っ赤になっている。
「次の職場でも迷惑ばかりかけるんでしょうね。就職先が決まっていたら、の話ですけど!」
 田端さんは再びドアの向こうに姿を消した。