「今すぐ止めるんだ」
白田は今までに聞いたことも、見たことないほど真剣な目をして言った。
「それはダイエットじゃない。拒食症だよ」
「拒食症って、そんなわけない。ただ食事制限してるだけです」
まさか話って、コレ?
「田端さんも心配してたぞ。最近ガリガリになってきてるって」
あの田端さんが? そんなわけない。
「だったらもっと優しくしてほしかったです」
わたしはだんだんイライラしてきた。こっちは必死で努力してるってのに。
「わたしは食べたものを吐いたりしてないし、ものすごく食べたくなる欲求とちゃんと戦ってます」わたしはドアに手をかけた。「仕事に戻ります」
田端さんが心配? ご冗談を。あの人は心配なんてしない。心が氷の女王なみに冷たいから。色は白じゃなくて、怒りの赤だけど。
それに拒食症だなんて。拒食症は、食べたくない人が言い渡される症状で、わたしはぎゃくに、食べたいの。それに、わざと喉に指を突っ込んだりもしてない。
仕事はあっという間に終わった。いつもとなんら変わらない。ひとつだけ、大きな違いといえば、今日はお客さんが少なくて、田端さんの小言がすくなかった。
ロッカーに置きっぱなしにしていたタオルや髪ゴム、歯ブラシなんかをバッグにつめていると、いつの間にそこに来たのか、田端さんが横で咳払いをした。わざとらしく二回も。名前を呼べばいいのに、なんでわざわざ遠回りするんだろう。
