空っぽの缶詰を捨てて控え室を出ると何故だか、白田がついてきた。
 わたしは気づかないふりをしてホールに行こうとした——けれどあっさり呼び止められた。
「ちょっとこっちに来て」
 なんだろう……。正当な理由を言え、とか? まだ辞めるな、とか? そうなったらバックれてやる。
 今朝はわたしが白田を倉庫に呼んだけど、今度は白田がわたしを倉庫に呼び出した。倉庫に入るのは、実は今日が初めて。
 沈黙。手汗をエプロンで拭きながら、白田が口を開くのを待った。
「最近何かあったのか?」
 白田の顔と声が、ひどく疲れているように見えた。
「何もないです」旅行以外は。「あの……戻っていいですか?」

「ああ……いや、ダメだ」
 白田は深く息を吐くと、中腰になってわたしと目線を合わせた。
「その、嫌なら話さなくていいんだ。だけど……」
 白田に顔を覗きこまれて、心臓がバクバク鳴り、冷や汗が出てきた。正当な理由なんて、一つも用意してない! なんと言ってこの場をのりきろう?

「最近……ほら、缶詰一個しか食べてないだろ? どんどんやつれてきているように……」
「あ、ただダイエットしてるだけですよ」
 わたしは軽く受け流した。やつれてるのは、ここに来てストレスが溜まってるからだもん。