「でも夢は今のままでじゅうぶんだよ。かわいいし」
 正紀が悪びれもなく言った。

 一、二キロ落とした方がいい⁇ 今まで男性に——友達や親すらも——体重を少し落とせなんて言われたことはなかった。それっぽいことも。だけどみんな違ったんだ。そりゃそうだ。わたしだって、太ってる人に対して太ってるとは言わないもん。

 痩せなきゃ……。一、二キロなんて、きっとすごいお世辞だ。正紀はとてつもなく細い。今のわたしの体型で、正紀の隣に立つなんて、よっぽどの自意識過剰さんでなきゃ無理だ。

 
 バイトは拷問だった。なんせ職場はカフェ・レストランで、わたしはウェイター。一日中料理を見てなくちゃいけない。朝はモーニングセット——昼はレディースデイでチキンのミルク煮——……。

 ようやく朝の地獄を乗り越えて、六十分の休憩に入る。六十分も休憩時間を与えてくれる白田に、頭を下げたいくらいの感謝の気持ちを胸に、控え室に入った。田端さんの隣のロッカーを開き、ランチバッグを取り出す。中身はシーチキンの缶詰ただ一つ。

 飲み物は節約して、キッチンの水道水。これはペットボトルのミネラルウォーターだと思いこみながらシーチキンをちびちび食べる。