「んー……そうだけどぉ? 悪い?」
「いや、悪くないよ。むしろもっと喜んで」
「喜んでるよ。こーんなに!」
 わたしは片手で大きさをアピールした。「見えた?」
「おお、見えた見えた! 楽しみだなぁ、会うの」
「え?」
「ん?」
「正紀も楽しみなの?」
「当たり前だろ」
 正紀はそう言って、もう一度笑った。

 わたしは正直不安だった。 正紀と付き合って八ヶ月、会いたいとは言ってくれるけど、いつ頃会うかを決めたのは初めてだ。不安が一つ解消されて、現実的な目標ができて、バイトも頑張れそう。

 
 バイトも頑張れる——そうはいかなかった。夢や目標があれば、不満なんて吹き飛ぶ、バイトも楽にできる、なんて思い込みはあてにならない。

 今日はサイアクの一日だ。朝から田端さんの小言を聞かされ、お昼を過ぎても白田は現れない。唯一の救いは、正紀からのメッセージだけ。

 突然、田端に腕をとられ、厨房の入り口まで引っ張られた。
「斎藤さん、三番テーブルのオーダー間違えてるわよ!」
「え? あ、すみません……」
 何を注文されたのか思い出せないけど、とりあえず謝っておいた方がよさそう。

「チーズベーグルじゃなくて、ただのベーグルよ。もしも三番テーブルのお客様がチーズアレルギーだったらどうするの?」
「すみません……」