わたしがいじけなければ、気まずくもケンカにもならない。気にしてないふりをすれば、ケンカなんてしない。けれど心の中は、まるで砂漠の中に現れた、不安という名の竜巻。ベッドに移動して目を閉じても竜巻は大きくなるばかり。そのうち、嵐までやってきた。
 正紀……会いたいよ。


 バイトを始めて一週間。今だに立ち振る舞いはおごそかで、中野さんはまだしも田端の野郎は、お客さんの前でも嫌みっぽく注意してくる。それに今朝は最悪だった。正紀とファッションのことで言い合いになり(とは言っても文字でだけど)、そのせいで少し遅刻、そのうえ朝食を摂り忘れてお腹ペコペコ。

 正紀が悪いんだもん。自分はへんちくりんな格好のくせに——紺色のポロシャツに、ねずみ色の、おまけの毛玉が付いたハーフパンツ——人の格好をバカにするから——。ていうか、少しは気を使ってもいいんじゃないの? わたしはかわいいって言われたいから財布に多少無理をさせてる。

「斎藤さん、そこはもう拭いたテーブルよ。こっちまだなんだけど」と田端。
「はいわかりました」わたしは棒読みでこたえる。