わたしは、両腕を別々の女に取られている先生の背中を見送った。タクシーに乗り込み、飲み屋街の方へ発進するまで、手を振り続けた。
 タクシーが見えなくなると同時に、走ってアパートへ帰った。

 ガチャガチャならしながら玄関の鍵を開けて、着替えもせずにベッドにもぐりこんだ。

 大事な何かを——例えば片目とか——失った気分に襲われた。そのうち、喪失感は涙に変わった。

 先生、先生、先生……。
 先生を好きになった理由なんて、もう覚えてない。それでも好きだった。わたしに美貌があれば……わたしにもっと魅力や知能があれば、先生に近づけたはず。

 今頃先生はハーレム状態で、こうしてる間にも、亀田さんと心と体を絡ませているかもしれない。だけどわたしには止めることも邪魔することもできない。

 先生はわたしを好きじゃない。むしろ、邪魔者扱いしていたかもしれない。他の人たちみたいに、帰るわたしを引き止めてはくれなかった。「またね」とも言ってくれなかった。期待していたマヌケな自分が恥ずかしい。何度も何度もときめいてはうちのめされても、映画やマンガでは最後には結ばれるはずなのに。