「え? あ、いや……わたしはぜんぜん……」
 先生と亀田さんに気をとられていたわたしは、福留さんの話を聞いていたことまで一瞬忘れていた。
「そっかぁ。斎藤さんなら、すぐに就職できるよ。若いし、努力家だしね」
 福留さんがほほ笑んだ。

 わたしが努力家? そんなことない。わたしの行動は何もかも裏目に出て、成功した試しがない。

「福留さんも、大丈夫ですよ。わたしとちがって、すごく社交的だし、優しいし……」
 わたしの声はどんどん小さくなっていった。声を出すのも億劫、そんな気分だ。外が寒くなければ、外に出てココアを買って、そのまま家へ帰りたい。

 もう一度先生を見てみた。他の女性とも連絡先を交換している。みんな、先生と歳が近い人ばかり。わたしはガキ。わたしなんかと、恋に落ちるわけがない。

「ねえ、この後飲みに行きません?」
 わたしよりもガリッガリに細い末吉さんが声をかけた。片腕を先生の腕に絡ませている。
 クラスのほとんどが、賛成した。みんなが盛り上がってる中で、わたしは愛想笑いを浮かべながらどす黒い気持ちを心に押し込めた。