「なに言ってんすかぁ!」
後ろから浮かれた男の声が割りこんできた。
「俺の方が似合ってますよー!」
三十代半ばの、いつも成績が悪かった男がわたしの肩に腕を回した。男のシャツからフルーツの香りがする。
「こら! セクハラよ!」とおばさん。
「俺の方が似合ってますよね? ヤングカップルで!」
ガハハッと笑う男の息は、フルーツとは程遠く、腐った卵の臭いがした。
「どう思う? 斎藤さん」
わたしは力なく笑った。
「かなり嫌そうですよ」
先生が笑いながら言った。
先生が。先生が、助け舟を出してくれた!
その場は笑いに包まれて、男は大げさにショックを受けたそぶりを見せた。
「あんたは、わたしでいいのよ!」
おばさまが言って、男の首を腕で挟んだ。まるで首十字固めをしているみたい。
「ほら、今のうちにくっつきなさい!」
なんて最高なノリなんだろう。みんなが笑っている。先生も笑っている。そして先生は、笑顔でわたしを見た。わたしはバカみたいに笑っていた口を閉じた。
