「斎藤さんは掃除をしないのかな?」
わあっ、先生がニヤニヤしながらわたしを見ている。しかも、わたしの名前を呼んで、わたしに話しかけてる!
「え……あ、はい。しま、す」
ハキハキ話せるガムとか売ってないのかな。〈ウィリー・ウォンカ〉が発明してそうな気もするけど。
先生は机を廊下に運びだした。いつの間にか皆がスーツのジャケットを脱いで、教室の大掃除を始めてる。
わたしも一応立ち上がろう。一応椅子をつかもう。そしてウロチョロしよう。
「これ重ーい」
わざとらしい女の声が響いた。
「せんせぇ……一緒に持とう?」
は、はーーー? なんて大胆な。
「大丈夫ですか?」
先生に心配されてるのはどこのどいつよ? あ、斜め前に座っていた太めの丸山さんだ。皮肉な苗字ね。
わたしは椅子をゴロゴロ転がす。自分のアパートも掃除していないのに、ここの掃除なんかしてられないっつの!
机を廊下に出してからは、掃除機とほうきと粘着ローラーが準備された。わたしは雑巾をとった。教室の角にあった雑巾。それも新しいやつ。
