カバンを持って、服をはたいて、顔を上げてみる——やった! 先生がこっちを見た。
「お疲れ様です」
もう先生はときめく相手じゃないんだけど——訓練生でいる間は、先生も含めておこう。
翌朝、わたしはいつもより三十分はやく起床した。カチューシャを付けて、ほんのりチークも。服にも気合いを入れて、オフホワイトのニットワンピを着る。これにストッキングを合わせればかんぺき。
足取り軽く家を出て、美容室の前を通った。健一さんが気づいて、箒を持って外に出てきた。
「おはよう」と健一さん。髪を外ハネにしていて、ほんとにほんとにかっこいい。モデルになれば絶対に稼げるのに。
「おはようございます」
朝から時間をかけて準備をしてきたわたしは、いつもよりすこし自信がある。
「掃除ですか?」
「うん。嫌になっちゃうよ、まったく。自分の家は掃除できてないってのに」
健一さんは、いたずらっぽく笑った。
「アハハッ」
わたしは完全にノックアウト。言葉が出てこない。
