「なに? 言いたいことがあるなら言えば?」
 わたしはわめきたてた。普段のストレスをぶつけるように、口が何度も開く。
「いつも親に守られてる正紀には、社会の苦労なんて全然わからないんだよ! そのくせ知ったような言い方して。わたしがどれだけ小言を言われてバカにされてきたか知らないでしょ⁉︎」

 正紀は黙っていた。口論が苦手なのだ。気まずくなるといつも黙るのが、彼のやり方だ。

 わたしは吐けるだけのため息をたっぷり吐き出すと、ぶっきらぼうに伝えた。
「ワガママな女とは話したくないでしょうよ。だからいつもの黙りをしてるんだもんね? いいよ、それなら。わたしも話さないから。じゃあね」
 電話を切った。

 何も考えたくない。胸が張り裂けそうに痛い。目が熱いし、喉が痛い。それになんだか頭も痛くなってきた。これからどうしたらいいの? バイトも辞めちゃって、最愛で最悪の彼氏も失った。
 正紀……引き止めてほしかったのに。涙が滝のように流れ落ちる。