訓練では先生に見惚れて、おとなしいシャイガールを演じる。演じてるわけじゃなくて、ほんとの自分を出せないだけなんだけれど。
明後日から一週間の春休みが始まる。なんとしても、休みに入る前に先生とお近づきになりたい。胸のムカムカにイライラしながら、先生になんて声をかけようか考える。「先生、春休みに二人で出かけませんか?」ダメー。こんなセリフはかわいい子限定。「先生、個人的に指導してほしいことがあるんです」とスカートの裾をいやらしくまくりあげる? きゃーっ、やばすぎ!
「亀田さん」先生の声だ。
わたしは野蛮な妄想でニヤニヤしていた口を閉じ、パソコンに身を隠して前方を盗み見た。
「どうですか、終わりましたか?」
「うーん……」
亀田さんの表情は見えない。かわりにヘンテコな後ろ髪が見える。
「頭がパンクしちゃいそう」
「ハハハ」まぁ、先生ったら、少年の笑顔ね。「わからないところはどこですか?」
彼女の隣の空席に腰かけて、うんと顔を近づけて個人指導を始める先生の観察は、これでおしまい。春休み、はやくこないかなぁ。
けっきょく、先生とは一言も言葉を交わさずにその日が終わった。
