とつぜん先生が振り向いた。おかしなことに、わたしたちは三秒ほど見つめあっていた。
予想していなかった出来事に、臆病者のわたしは視線を一瞬横にずらしてしまった。
「わかりましたか?」
先生の視線はわたしの鼻から下に下がっていた。
「えっと、はい……」
先生は立ち上がってシャツの裾を伸ばした。会話はもう終わり。なんてはやいの。
わたしは教科書とノートを重ねて、カバンにつめこんだ。パソコンを閉じて椅子をひく。
「あイタッ」
「えっ」
わたしはふり向いた。先生がお腹を抱えて苦笑いを浮かべている。
「う、あ……あの、すみません、ごめんなさいっ」
まさかまだ後ろにいたなんて! 変な行動してなかったかな⁈
「いえ、大丈夫です」
「あの、怪我しませんでした?」
わたしはオロオロと手を振った。マヌケ。
「ほんとに、ごめんなさいっ。後ろにいるとは思わなくて——」
約五秒間、わたしの頭の中がスパークした。先生の暖かい手のひらが、わたしの手の、右側を、〝つかんでいる〟。
「焦りすぎです。大丈夫ですよ。気をつけて帰ってくださいね」
