ピピピッ。。。


目覚まし時計にしては控えめな音で、高城 結(たかじょう ゆい)は目を覚ました。

今日は2月16日、まだまだ寒い。それでも結は、日が昇るより早く布団を出た。
お湯を沸かして、冷蔵庫から卵を取り出した。小学5年生としては小柄な結が、背伸びをしながら卵を取る様は、何とも可愛らしい。しかし、当の本人はそんなことを気にするはずもなく、黙々と朝食の用意をする。

結の母親は医者だ。2歳の時に夫が交通事故で死んでから、彼女は女手一つで3人の子供を育ててきた。
結には2歳年上の姉、咲(さき)、そしてそのさらに2歳年上の兄、健人(けんと)がいる。

食事は母親が作ることが多い。しかし母親は救命医で、当直もある。家事は、どうしても当番制になってしまう。
しかし結は、全くそれを苦としなかった。



朝食の準備ができて、結は兄と姉を起こしに行く。兄は、名前を呼ぶとすぐモゾモゾと布団の中で反応した。
問題は。。。と、結は姉の部屋にズカズカと入り、咲の肩を大きく揺らした。こうすればすぐ起きるのだが、部屋の入り口から名前を呼んで咲が起きたことはない。そもそも結がそんな不確かな起こし方を試みたこと自体、ほとんどない。

結は恐る恐る母親の寝室のドアを開けた。が、そこに母親の姿はなかった。結はホッとため息をついて、母親の寝室を後にした。。。