同じクラスの奥村蒼空(おくむら そら)くんは、クラスメイトの中で無口くんというあだ名で呼ばれている

決していじめられているという訳ではなく、誰も彼の声を聞いたことがない。という理由だけで付けられたあだ名だ。
実を言うと、私も彼の声を聞いたことがないのだ。
授業中も先生から当てられたことはないし、委員会は美化委員で仕事は花の水やりくらいで…。
…もはや、無口くんはこの学校の七不思議みたいになっている。

ご紹介遅れました、私は白石乃愛(しらいし のあ)。
手厳しかった母に似て、プライドはエベレストより高く、きつい性格に育ち、初めて出来た彼氏にも「きつすぎて、女として無理。」なんて言われてあっさり振られてしまった。
…私はちゃんと好きだったのだけれど、上手くいかないことばかりだ。


「無口くんって、好きな人いるらしいよ。」
体育でバレーをしている最中だったが、噂好きな彼女にそんなことは関係ないようだ。
彼女の名前は花江雫(はなえ しずく)。
先程もいったように、噂話が大好物。
「…また、あんたは…。そんn」
そんなの根拠もない噂話でしょ。と言いたかったのだけれど、雫によってその言葉は遮られた。

「いつもの噂話じゃないの!これは、無口くんに告白した女の子から聞いたの!」
まあ、それが本当の話だったとしても、私には関係のない話だから、ここは適当に流すことにしよう。
「わかったから、今はバレーに集中するよ。」





キーンコーンカーンコーン
帰りのホームルーム終了の知らせの鐘がなって、一斉にみんなが帰り支度を始める。
自宅へ帰る人、部活動へ急ぐ人。
放課後の教室には、私ともう一人残っていた無口くんの二人だけになった。
私は、先生から会議で使う資料のホチキス止めを頼まれているので、自主的に残ってやろうと思って残っているのだけれど、無口くんは…なんでここにいるんだろう…?
何をしている様子もなく、ただボーッと窓の外を眺めているだけ。
まぁ、どうでもいいか。
カチッ パチン
私はこの作業に集中!!早く終わらせて帰るぞ!

「……ふぅ。」
最後の紙を止めて、一息ついた。ふと、忘れかけていた無口くんの存在に気付くが、まだボーッと窓の外を眺めているだけだった。
外に何があるというのか…と、外を見るが、特別に何かがあったと言う訳ではなく、綺麗な夕焼けが空いっぱいに広がっていた。……本当に何をしているんだろう。
ま、当然私には関係のないことで、無口くんが何をしていても彼の自由なのだから、放っておこう。
椅子から立ち上がって、出来上がった資料を持ち、先生のいる職員室へ向かう。


「失礼しました。」
先生のもとへ資料を届け、荷物がある教室へ。
教室の前へ来て、扉に手をかけたとき、教室の中から声がして、扉を開こうとかけた手を止めた。

「好きなの!蒼空くんのこと!」
…?!こ、告白現場に出くわしてしまった…!
無口くんって、モテるんだな~。なんて思いながら、ちゃっかり少し開いていた扉の隙間から、覗き見。
「…好きな子がいるって……ほんとなの?」
そんな質問に、少し間があった後にこくんっと頷く無口くん。
…雫が言ってた噂って本当にほんとだったんだ…。
ガララッ!
勢いよく教室の扉を開けて、走っていく女の子。
きちんと見れなかったけれど、きっと泣いていた。
その様子からして、振られてしまったのだろう。
ひとつのカップル誕生!の場面に立ち会うことはできないようだ。
やっと教室には無口くんだけになったし、荷物を持って急いで帰ろう。
静かに扉を開けて、自分の席に置いてある荷物を持つ。
ガタッ
………やってしまった。
荷物を持ち上げるたときに、荷物が机にぶつかって大きな音が出た。
いたことがバレたと思って焦る私はそっちのけで、無口くんは立ったままこちらに見向きもしないで、ただただ外を眺めている。
これはもう、心配せずにはいられないだろう。
「そ、蒼空くん?どうしたの?大丈夫?」
後ろからそうっと話しかけて、こちらを振り向いた無口くんの目からは涙が流れていた。
「えっ、どうして泣いてるの…?」
そう問いかけると、無口くんは…。







好評だったら、続けようと思います…!
ここまで読んでくださってありがとうございます!