「お母さん、見て! これミーナじゃない?」
「あら、本当。……魔法、使えるようになったのね」

 ある晴れた日。地方新聞の記事を抱えて走ってきた少女が、美しくて優しげな中年女性に声を掛けた。二人は新聞記事に載っている人物について語り合っている。



 花の森(フロシア・シルトゥス)と呼ばれているそこには森の奥に開けた土地があり、一面の花が咲き誇っていた。四方を森に囲まれたその一角で、花々に降り注ぐ陽光が照らされて幻想的な空間を作り出している。

「おーい、大変だ! ミーナが新聞に載っているぞ!」

 優しげな中年男性が新聞を片手に森から走ってきた。村で仕事をしていた彼は急いで森を抜けてきたのか、息を切らしている。二人は声を立てて笑った。

「今それについて話してるところよ!」
「そこまで急がなくたって、新聞は逃げないわよ?」

 全員の笑いが森に響く。ミーナが新聞に載った日の、マグノリア家での出来事だ。