「ミーナの実家はどこだっけ?」

 よく晴れた日の朝。ユリウスがトランクを持って階段を下りてきたミーナに尋ねた。店の窓からは白銀の陽光が射し込む。

「アルツィラーヌ村にある森の奥、通称『花の森(フロシア・シルトゥス)』よ」

 遠出の準備を整えた彼女が答えた。落ち着いた色のドレスにお気に入りのケープを纏うミーナを、白手袋が上品に引き立てている。

「どうやって行くの?」
「村の付近までは荷馬車を乗り継ぎながら乗せてもらう予定。途中宿に泊まって、3日くらいかかるかな」
「結構遠いんだね。それなりに人のいる街なら荷馬車は常に行き交ってるだろうし、簡単に乗り継げると思うよ」
「こっちに来るまでも困らなかったし、きっと帰りも問題ないはず!」

 店のフロアに入ったミーナの元に、見送りに来ているレネとアデライドがミーナに駆け寄る。レネはブラウスに斜めのストライプが入ったタイ、袖無しのジャケット、下はズボンと少年らしい格好をしていた。

「すぐに帰ってきてね! ボク待ってるから!」
「気を付けて帰るのだぞ」
「往復の移動で一週間くらいだから、二週間くらいかな。二人とも、ありがとう」