「全員ついてきてる?」
「大丈夫! ボクが一番後ろについてる!」

 地下から階段を駆け上がり、屋敷の一階を小走りで移動するミーナ達。彼女の問いかけにレネが答えた。

 荘厳な装飾で彩られた廊下を、壁に掛けられた燭台の光がおぼろげに照らす。繊細な彫刻の陰影は濃く、この空間の薄暗さを際立たせている。

 ミーナの読み通り、地上はヴィオルド達のお陰である程度の安全が確保されていた。屋敷の中にいるほとんどの人間が意識を失っているか、意識があっても足を狙われ戦闘不能の状態となっていた。

 その中にはミーナと同じ年頃であろうメイドもいる。恐らく彼女は何故この屋敷が襲われたのか知らないのだろう。そう考えると、自分達は悪いことをしているのではないかという気持ちに陥ってしまう。

「あの、大丈夫ですか?」

 捕らえられていた少女のうち一人が、ミーナの足取りに迷いが生じたことに気づいたようで声をかけた。その少女もミーナと同じくらいの年齢だと思われる。

 後ろからは、レネが何があったのかと不思議そうにこちらを見ていた。

「大丈夫、問題ない!」

 ミーナは何を迷っていたのだろうか。レネも、目の前の少女達も、商品として売られるところだったのだ。そして気絶していたメイドの娘も、運が悪ければ商品としてこの屋敷にいた可能性だってある。これは善か悪かで測れる問題ではないのかもしれない、とミーナは感じた。

 ミーナは屋敷の玄関に到着したのち、外の様子を確認した。門番もヴィオルド達の手によって気絶している。

「外も大丈夫そう。行くよ」

 そして少女達は、月明かりを受けながら伯爵邸という美しく残酷な牢獄をあとにした。