小走りで案内してくれるレネを追った先には、地下牢のような場所があった。一つの檻に、数人の少女や幼女が押し込められている。

Yĥuï wīxå(開け)!」

 檻に掛かっている南京錠に向かってミーナは呪文を唱える。間もなくカチャリと音がして鍵が解除され、ギイと音を立てて檻の扉が開いた。

「一個ずつ解除するのは面倒かも。一気にできないかな」
「やってみたら?」
「そうだね」

 杖を構えて集中した。すぐに追っ手が来るだろう。時間が惜しい。

Yĥuï wīxå(開け)!」

 地下牢に響き渡る声で呪文を叫んだ。杖の先が光ったと思えば、その光があちこちへ分散されて消えた。

 その直後、光が分散した方からカチャリという音が一斉に聞こえた。レネが少女達を誘導し、ミーナの元へ集めている。

「いたぞ! 一人も逃がすな!」

 商会の手の者達に追い付かれてしまったミーナ達。いつの間にかこの屋敷の護衛達が加わり、人数が増えていた。こちらで戦えるのはミーナ一人。しかも相手はプロ、彼女は付け焼き刃の魔法使いだ。

 脳内で警鐘がうるさく鳴り響く。

 彼らを突破して屋敷から出る方法が思い付かないまま考えを巡らせる間にも、どんどん距離が詰められていた。護衛や商会の用心棒達の腰に光る剣が、ミーナの恐怖心を煽る。

 本物の剣を持つ相手と対峙したことがなく、そもそも戦ったことはない。いざ死を目の前にしたら、怖気ずくのは当然だろう。それでも何かしなければならない。彼女は震える声で呪文を唱える。

Ğøżmę(イカヅチよ)!」

 辺りに稲妻が走り、数人の男がその場に倒れる。しかしこの状況を突破するには程遠い。ここにいるレネと少女全員を連れて逃げるには、ある程度の安全さを確保しなければならない。

 それなのに、ミーナは恐怖と焦りで魔法に集中できない。

 絶望的な状況。そんな言葉が思考を埋め尽くす。このまま自分も捕まり売られるのか、なんて考え始めたときだった。

「一人で飛び出した割には、諦めが早いな」

 聞き覚えのある、人を馬鹿にしたような声。間違いない、ヴィオルドだ。なぜ彼がここにいるのだろうか。それでも、彼の声を聞いて安心している自分がいる。

 もちろんミーナはそれを癪に感じたが。