その頃。当の本人――ミーナはそんな視線にも気づかず、カウンター席で食事をしている。経済的な値段だが、味は良かった。

「やあ、そこのお嬢さん」

 声のした方へ顔を向けると、焦茶の髪に赤褐色の瞳。まだあどけなさの残る美しい青年が、こちらを向いていた。年齢は十代後半。ミーナより歳上といったところか。

「ここは城下ほど治安が良くない。従者とはぐれたのなら俺が送って行きましょう」

 声を掛けた青年――ヴィオルドは相手の出方を見ようと差し障りのない言葉を紡いだ。しかしこの台詞は彼女の気に障る。彼女は少しムッとした表情で答えた。

「ご心配なく。探し物があるので」

 まさか劣等感を感じて家を出たから仕事探しをしているなんて、恥ずかしくて言いたくない。

「それなら俺も手伝いましょう」
「いいえ結構。急いでいるので失礼」

 ミーナがお代を置いて席を立とうとすると、ヴィオルドが腕を掴んだ。そのまま低く冷静な声で鋭く言葉を放つ。

「おい、あんた何者だ。逃げるということは何か企んでいるということだな」
「え?」

 呆れた表情で相手を見つめ返したミーナ。ヴィオルドは文句を言い掛けたが、穏やかな男性の声によって阻まれた。

「ヴィオルド、その辺にしておきなさい」