「さあさ紳士諸君! 今宵は珍しいものが手に入った! 見た目は麗しき乙女、しかしその正体は子羊のような少年。嗚呼、此れ程のものに一度出会うことが出来れば幸運であろう!」

 司会をしている商人が男達から話を聞き、その華麗なセールストークに花を咲かせる。

「天使というのは雌雄の区別が無いと聞きます。そう、彼こそ正に天使のような存在ではないか! 値段の下限は設けません。価値を知る皆様の本気を確かめとうございます!」

 レネはただ無表情に目の前の光景を見つめる。これが現実なのか。自分の身が危ういのに、絶望のあまり現実味すら感じられない。

 それなのに涙は滲んできた。静かに視界が歪む。数字を叫ぶ声が、どこか遠くに聞こえた。

「ちょーっと待ったぁ!」

 不意にどこからか聞こえてきた声。仮面を被った紳士達が一斉に振り向く。

「その子は渡さないよ。そして他の子達も解放してあげる」

 凛とした声が、場内に響いた。

「誰だ、お前! メイドの分際で何をしている!」
「アイツを捕らえろ!」

 何人かの男がメイドへ襲いかかる。いや、彼女はメイドではない。鈴のような声、その美しい容姿。そう、ミーナである。

Vaŗsĩm(風よ)!」

 彼女が杖を降りながら呪文を唱えると、突風が巻き起こり襲いかかった男達が次々と後ろに十メートルほど飛ばされた。

 彼らが怯んだその隙に、ミーナは中央へ行きレネに駆け寄る。

「レネ!」
「ミーナ!」
「さ、行くよ。捕まった子達はどこにいる?」
「ボクが案内する! ついてきて!」

 ミーナはレネに連れられて鉄の扉に向かった。