魔法の使い方

 ジャメルザ伯爵邸の前にたどり着いたミーナ。全速力で走ったため、息が上がっている。息を調えて顔をあげると、いかにも貴族の邸宅といった立派な屋敷が建っていた。

 門の回りには競売に参加してるであろう貴族やソルバ商会と思しき馬車がいくつか止まっている。そしてさすがは貴族。警備が厚い。門番が目を光らせていて、迂闊に近づけない。

Đġerġ(闇よ), ëli suŕ žiŗŧşe hěr(我の敵から)phíxèn fėg(光を)yĥuï źøbmê(奪え)

 彼女は門番達から見えないギリギリの位置まで近づき、杖を取り出して静かに呪文を唱えた。彼女の回りから黒い煙が舞い、門の前を埋め尽くす。

「な……なんだ! 急に目の前が真っ暗になったぞ!」
「おい、どういうことだコレ!」
「全員動くな! ぶつかったらどうする! 武器も振り回すんじゃねえぞ! うっかり死にたくねえからな!」

 大層な呪文とは裏腹に単純な目眩ましの魔法だったが、成功したようだ。屋敷内を警備していた護衛や使用人も騒ぎを聞いて煙に飛び込み、視界を奪われている。この混乱で内部の警備も手薄になっただろう。

 呪文には「我の敵」と入っているので、術者は対象にならない。ミーナは人の間を縫って屋敷内へ速やかに侵入した。





 燭台の炎がぼんやりと照らす薄暗い廊下を足早に歩く。地下へ繋がる通路を見つけなくては。

「あなた誰!? 屋敷の人間じゃないわね?」

 後ろから声をかけられてギョッとした。恐る恐る振り返ると、ロウソクを片手に持ったメイドがこちらを睨んでいる。これはまずい。

Tĭhüã suŕ ċim mú(夢の中へ)yĥåïne qūeł(お行きなさい)……」

 眠りの魔法をメイドにかける。きらきらと細かい星屑のような光が舞ったと思ったら、途端に眠り込んだ。

 彼女からメイド服を拝借し、ミーナは自分の服をメイドに着せる。メイドの格好をし、ジャメルザ家の使用人らしくなった彼女は更に廊下を進んだ。