ミーナはかつて母親に言われた言葉を思い出した。

「魔力は流れる水のように扱うと良いのよ」

 当時はその意味が理解できなかった。しかし今なら理解できる。つまり、魔力を上手く扱えていなかったのだ。

 気づいていなかったが、彼女は人よりも高い魔力を持っている。そのため、一回の魔法で使う魔力が多くなってしまう。それに気づかず魔力量のコントロールが正しく行われていなかったので、魔法の発動に影響が出ていたのだ。

 全てを理解したミーナは拍子抜けしてその場に座り込む。

「魔力が多すぎるのが理由だったなんて」

 ふっと、何かが切れたように笑いが漏れた。強い劣等感に縛られ、有能な人――特にヴィオルドの前では虚勢で自らを飾り、常に気を張っていた。それがむしろ能力が高いせいで魔法が使えなかったなんて、これ程に滑稽なことはあるだろうか。

 しばし放心したのち、すぐに魔法の練習に取りかかった。時間は少ない。

Bŷgĕzh(火よ)!」

 なんとか魔力量を調節し、思い通りに魔法が発動するようになった。目の前の机に置いてある燭台のロウソクに火がつく。もちろんそれ以外のものは燃えていない。

 それを確認したミーナは外へ出る準備を始めた。外はとっくに夜で、月が柔らかく微笑んでいる。酒場で飲んでいる者達で町は賑やかなのだが。



 彼女はクローゼットの奥から上等なケープを出して羽織った。髪は下ろして軽く整える。斜め掛けの鞄に魔法書と杖を入れて、静かに部屋を出た。