「レネはずいぶん前に帰ったよ?」
「こちらにもいなかったか……。一体どこをほっつき歩いているのか。こうも遅いと心配だ」
「……帰るって聞いてからもう二時間たつし、レネが『アデルが心配するから』って言ってたことを踏まえると、まだ帰ってないのはおかしいかも」

 ミーナはレネを訪ねてきたアデライドから、まだ帰宅していないことを知らされ驚愕した。考えれば考えるほど不安になってくる。彼に何かあったのだろうか。

 アデライドとミーナが状況を掴もうと話し込んでいると、ユリウスも心配そうな顔をして二人の元へやって来る。

「ミーナ、アデライドと共にレネを探しに行きなさい。店番は私がするから」
「ユリウスさん……」
「有り難い。お言葉に甘えて彼女をお借りしよう。借りは必ず返す」
「レネが戻ってくることが一番の喜びです」
「私、準備してくる」

 彼女は二階の自室へと駆け上がって行った。


 部屋に着いた彼女は店の制服を汚したくないから、普段着に着替える。普段着は家から持ってきた服で占めている。

 着替え終わった後、ミーナは家を出たときに持ってきたトランクを開けて中を漁る。取り出したのは、棒一本のシンプルな杖。

 家では自分の身長より高く、先に水晶や繊細な装飾を施された杖を使っていたが、王都でそれは目立つだろうと簡易杖を持ってきた。

 杖と一番軽い魔法書をポシェットに詰め、階段をバタバタと勢いよく駆け下りる。いつもならユリウスから「そんなに音をたてて下りないの」と小言を頂戴するところだが、今日は何も言わなかった。

「いってきます」
「夜までには戻ってくる」

 二人は真剣な面持ちで店を後にした。