「帰ってきてくれてよかった。何かあったのかと心配して待ってたよ。案内してくれてありがとうね、ヴィオルド」

 ミーナはヴィオルドに連れられてようやく店にたどり着いた。ユリウスが優しく迎えてくれたが、彼女はムスっとした表情を崩さない。ヴィオルドの世話になったことが、気に入らないのである。

「どーもありがとーございました。もう結構なのでさっさと仕事に戻ってくださいませ」
「二人とも、そろそろ仲良くしたら? もう誤解は解けたのだし」

 ユリウスは諦め気味に提案したが、やはり二人にその気は全く無いようだ。ミーナは反論を含んだ視線で、ヴィオルドは肩をすくめて否定の意を示した。ユリウスはそれを見て、今のところ難しい相談であると悟る。

 ユリウスの元へ送るという目的を達成したため、ヴィオルドは制服であるロングジャケットの裾を翻して扉へ向った。

 そんな彼へユリウスは声をかける。

「もう行ってしまうの。紅茶かコーヒーくらい出すよ」
「仕事の途中だったからな」
「とっとと戻りなさいよ」

 ヴィオルドは「言われなくても」と言いたげに足早に店を出ていった。去り際に振り返り、「最近、王都で妙な動きがあるから気をつけろ」と残して。





 ヴィオルドが去ったとこにより言い合う相手がいなくなったミーナは大人しくなり、客の少ない時間帯も相まって店の中では静かにゆっくりと時間が流れる。

 古き良き家具や時計、落ち着いた色の壁紙がさらに店内の雰囲気を独特の空気に染め上げる。改めて見ると趣味の良い、洗練された部屋であることに彼女は気づいた。

 静かな店内で、時計の針が時間を刻む音が木製の家具に染み入るように響いている。