「花帆」



ついに、ついに。少し掠れた低い声が、確かに私の名前を呼んだ。呼ばれて、しまった。




女の子たちの目線が、一気にもう1人の男の子へと向けられる。


一度も染めたことのない綺麗な黒髪の男子、渡飛鳥(わたりあすか)くんの方へと。




「あ、飛鳥くん……」


少しばかり顔が引きつったのは許してほしい。



これからどうなるかだなんて、私が1番わかっているから。




「来い」



たった、一言。


その一言だけでも、私がノーと言うことは許されない圧がこもっている。