あいつは、可愛いから。どうしようもないくらいに。


純粋で、素直で。俺の約束をバカ正直に守って。



中学から密かに人気のあった花帆は、裏で俺が手を回していたことなんて夢にも思っていないだろう。




「……とにかく、その機嫌の悪さ、お客さんの前では出すなよ?」

「わかってる」


よろしく、と俺の肩を叩いて去って行った一成の背中を見ながら、手には力がこもってた。



ホールに出ると、まだ人はまばら。


いまはまだ10時。12時前には混み始めて、2時にはラッシュが落ち着く。働き始めてまだ日は浅いが、だいぶ慣れてきた。



「あっ、渡くん。おはようございます」

「どーも」


トレーを取りに店内の奥に行くと、その手前にあるテーブルでなにやら教科書を広げて勉強している菊川さんの姿があった。