「──さて」

と、足立が微笑んだ。

右手にはシャーペン、左手には数学の参考書。

場所は天野家のリビング。

愛と並んで座っている天は、ごくりと唾液を飲み込んだ。

目を細め唇の端を吊り上げる足立は、さながら鼠を追い詰め舌なめずりをする猫。

「始めようか」

「……よろしくお願いします」

なにかと言うとなんてことはない、中間テスト対策の勉強会である。

五月も下旬。考査前の日曜日。

うららかなる初夏の陽光射し込む机にノートを広げ、ちっとも楽しくないお勉強だ。

「やりたくないならやらなくていいんだぜ」

「いいえご教授お願いします」

内心を見透かされびくっとしながら反射的に答えた。