「明日は土曜日だから、できれば……。店番しなきゃならない?」

「いや、大丈夫。つい先日ひと仕事終わらせたところだから、暇なんだよ」

というのは祐実の父親の話だ。ペンネームは知らないが、多忙な小説家らしい。

その傍ら、古書堂を営んでもいる。本業だけで稼ぎはあるから道楽なんだ、とは、以前に祐実から聞いたことだ。

多忙な父親の代わりに、というのは半分建前で、祐実自身も本が好きだから──という理由だけでもないが──足立古書堂の店番はもっぱら彼女。

「そっか。……どうかな、だめ?」

「構わないよ。明日ね」

「ありがとう、すごく助かる」

安堵の息をもらすと祐実は目を細めて笑った。

「クールビューティが料理下手とは、ギャップ萌えってことで話題になりそうだけどねえ」

「勘弁してほしい」

愛は料理ができない。経験は中学時代の調理実習がせいぜいだ。

昨日あんなことを言っていたが海はできる。断った理由は、「できちゃったらつまんないでしょ」。思考回路は愛の理解の外である。