「──では」

放課後の西日が射し込む書店──足立古書堂。

足立の父親が経営するというこの店内で、カウンターの内側に陣取る足立に、海が腰を折りながら包を差し出した。

「この度は、本当にお世話になりました。家族一同より感謝を申し上げます。ささやかですが、お納めください」

「よかろう」

などとふざけた文言を交わしながら、うやうやしく差し出されたものを足立は受け取った。

天は微妙にそのノリについていけず、半歩後ろで眺めている。

この場にいるのは三人だ。天は先程、「こないだはありがとな。よくわかんないけど、色々足立のおかげなんだろ? これ、よかったら」と言って、洋菓子店で買ってきたケーキを渡したところである。

それほど大きくはない紙包を、足立は丁寧に開けていく。

「──!」

中身を見たとき、足立が一度飛び上がった。

彼女のそんな反応を見たことがなかったので、天はぎょっとする。

足立は瞳を潤ませ、頬を赤く染め、恍惚とした面持ちで海からの贈り物を見ていた。

「……なに? なんか変なもの渡したの?」

「いやいやまさか。気にしなくていーよ、祐実ちゃんは希少な本を見たときは、だいたいこういう感じだから」

と言うので、贈ったものが本だとわかった。

「これ……、本当に、もらっていいの?」

震える声で訊ねている。訊ねていながらその本を包みなおし、大切そうに引き寄せている。

「もちろん。気に入ってもらえたみたいでよかった」

「……っ」

天は再びぎょっとした。幸せそうな満面の笑みを、足立が浮かべたからだった。

今にも小躍りし出しそうな彼女を置いて、天は海とともに書店を出る。

「……びっくりした」

「初めは誰でもびっくりするんだよねー」

そんなふうに、穏やかに日は暮れていった。