海は足音を立てぬよう、そっと階段を下っていった。

屋上に通じる階段だ。今まで彼は、可愛い妹と後輩の会話を盗み聞いていた。

校舎を出てからスマホを取り出し、電話帳を開く。

「足立古書堂」を選択。目当ての相手はすぐに出た。

『はい』

「祐実ちゃん? 海だけど」

幼なじみの少女は、笑みを含んだ声で応じた。

『どうだった?』

「解決したみたい。ありがとう」

このところ愛の様子が変なのでどうにかできないか、と相談したのが数日前。

了解、の一言で引き受けた彼女は、愛と天を二人きりにする、という手段で愛の憂いを晴らした。

しっかし、と海は天を仰ぐ。

「屋上の鍵なんてどうしたの?」

『聞く?』

「……やめとく」

きっとろくでもない。知らぬ存ぜぬは便利で安全だ。

オレンジ色はひたすらに眩しい。雲の端が燃えるよう。

「お礼はまた今度」

『期待しておく』

通話が切れた。スマホをしまいつつ海は思案する。

此度の祐実の働きに見合う、素敵なお礼の品はっと。

お菓子は……スペイン土産を愛があげたはず。

それに合うおいしいお茶なんて、いいかもしれないな。