年齢不詳の女性の写真立てを前に、海はため息をついた。

「まったく、今はどこをほっつき歩いてるんだか」

「さあ」

小首を傾げて愛は言う。

「前回はフランスからお土産が届いたから、まだヨーロッパなんじゃない?」

「スペインとかイギリスとかその辺かな」

しかしどれも憶測に過ぎない。我らが母親の行方は不明。生きてはいると思うのだが。

日本を飛び立って──もうすぐ五年にもなるだろうか。財布だけが頼りの危なっかしい旅は、いつ終わるのやら。

「ま、さすがにそろそろ連絡が来るでしょ。じゃなきゃ父さんまで旅立っちゃう」

「それは困るね」

伸びをしながら海は背を向けた。残されて、十数年前の母親の写真を覗き込む。

アイドルだった母。父と恋に落ちて芸能活動を辞めて結婚し、四人の子どもを産んだ母。それから突然海外に旅立った母。

天野家最強の女性である。

「……次のお土産はなにかな」

密かな楽しみを、小さく呟いた。