断片的な、

眠れない辛さを知っているだろうか。
目を瞑ると自分の毛細血管が見える。
瞼は閉じたいるのに目は閉じていないみたいだ。
急にパッと血管が見えなくなったと思ったら、
今度は肌を埃が撫で続ける。
気持ちの悪い強さと温度である。
それに加え、音と匂い。
ギターのホールが空気と振動し、壁が気温差でうなり声をあげる。
ボーンともウォーンとも聞こえる音は頭に心臓に響きまわる。
音はそれだけでなく、自分の肌と衣服、衣服と布団の擦れる音。
気圧の差で隙間から漏れ出ている空気の音などあげだしたらキリがない。
いつも使っているシャンプーや石鹸はフローラルという言葉の響きとは全く異なるにおいをしている。
枕元に置いてある自分を慰める時に申し訳なく出たものは、すべての人を不快にするような。
視覚、聴覚、触覚、嗅覚、
四つの感覚が力を合わせて眠りを阻害してくる。
そこに生まれる焦りや怒り、憂いなどの感情もまた一緒になって邪魔をしてくる。
僕は寝たいのに僕が寝かしてくれないようだ。
やっとそれが気にならなくなり始めたころ、
急に何ががバチッという音とともに訪れる。
そしてまた、彼も眠りを阻害する。彼らに抗うためには自分一人では無理がある。
それならばとお酒や薬の力を使うが、
今度はその時の記憶にない自分が怖くなる。
が、背に腹は替えられないので寝るために毎日のまれるようになる。
薬やお酒のおかげで見えないものに怯える。
彼らはずかずかと僕のスペースに入ってきては
耳元で何かを囁き続ける。
自分の声だとも気付くこともなく、ずっと囁き続ける。
それが煩くて煩くて仕方がない。
助けてくれ、ここから彼らを連れ出してくれ。
ムンクの『叫び』から聞こえてくるような声で
必死に。
親はもちろん子供を心配し、声をかける。
神にも悪魔にもなりうるそれは僕から薬やお酒を
遠ざけ、叱る。
神、否、悪魔である。
何も分かってはいないただただ邪魔な存在であると感じる。
親に見放されたと感じた子はさらに塞ぎ込む。
木の壁に頭で釘を指す。
ゴンゴンという音に救われながら。
僕は見放されたネズミさながら、
家の中でもネットの中でも、社会に出てもさまよい続ける。
全ての糸が切れてしまってはもう後戻りはできない。気づくと僕はビルの屋上に立っていた。
スマホを持っていた。
'視聴者11万人'目の前には警察が数名。
男かよと聞こえた気がする。
「こういう形で死ぬに至った経緯ですか、
僕は大人になりたくないんですよ。
なぜかって小さいころから受けていた父からの暴力と連日テレビで放送される
嫌な大人のニュース、それに大人って無駄に生きることを強いるじゃないですか、
毎夜毎夜アルコールで心を浄化し頭を狂わせ無理をして生きている。
そんな大人が多すぎて大人にいいイメージがありませんでした。
僕もいつか大人になると気付いたときは本当に絶望しました。
でもその前に死んでしまえばいいんだという画期的な考えが頭に浮かんで、」
こんなにも僕はすらすらと喋れたのかと興奮した。

「おい!君!今すぐ配信をやめなさい!死のうとすることもやめなさい!
生きていたらいいことがあるから!」

「それ以上近づかないでください。飛び降りますよ?
なんでそう生かそうとするんですか、
僕はあなた方が楽をするために生まれたわけじゃありませんよ。
あ、大人になって生きていていいことはありましたか?
もちろんあなたにとってではなくて僕にとって。」

警察はじりじりと進めていた足を止めた。

「もちろん親や友達はもちろん助けようとしてくれました。
でも、成長の過程で培った人間不信のおかげで何も届きはしませんでした。」
僕のとても幼稚で飛躍した考えに対しての反応はやっぱりいつも通りだった。
それが嬉しいのか悲しいのかはよくわからないがさらに早くここから消えたいと思った。
呆れ、好奇、心配、無関心、怒り、
とても幼稚で見ていられないようなことをしている子供を片手間でなだめようとする人、
面白いおもちゃだと思い飛び降りることを催促する人、
人だかりにイライラしている人。
様々な人が各々の形で楽しんでいた。

「そろそろにします。
皆さんが先にどうぞ。続きは下で良い子して動画を撮っている人からもらってください。」

そういうと、スマホを落とした。
数秒後ガシャンという音とともに人々が騒ぎ始めた。

「では。」

と挨拶をし、数秒後パァーンとグシャという音が同時に、騒いでいた声をかき消した。テレビのインタビューより

「私はあの場にいました。
まさか本当に飛び降りるとは思いませんでしたが、
とても面白いコンテンツだったと思います。
これを機に何かが変わってくれるといいと思います。」
                  会社員(26)・女性

「一貫して何を言っているかわからず、
それも幼稚で見るに堪えませんでした。
こういうたぐいのものは無くなればいいのにと思います。」
                  自営業(38)・男性

「何かこうなる前にできなかったのかな。
と無力な自分が情けなくなりました。
誰かああいう人を助ける場を設けてあげれば…。」
                  学生(21)・非公開

「あまり詳しくはわかりませんが、周りの環境が悪かったのだと思います。
ああなる前に周りの人が気付いてあげるのが大切だと思います。」
                  会社員(25)・男性

「やっぱりあまり面白くないですね。」
          本人(18)・性別なし