不安になりながらも部署に着くと皆を集めて挨拶する。
1人ずつ自己紹介をすると仕事の指導を受けることに。
私は、今井さんという年配の女性の指導を受けることになった。
今井さんは、親切に色々と教えてくれたが、その間にも課長の怒鳴り声が社内に響き渡った。
「おい、何だこの報告書は!?金沢。
お前の頭は、ポンコツか?今すぐ書き直せ」
「は、はい。すみません」
金沢さんという人は、ビクビクしながら必死に頭を下げていた。うわぁ~怖い……。
そんなに怒らなくてもいいのに。
凄い剣幕で怒る課長にドン引きした。
いくらなんでもやり過ぎだと思う……。
こういう指導は、今の時代には流行らないのに……。
すると隣で指導してくれた今井さんが、クスクスと苦笑いしていた。
「今日も鬼課長として、凄みがあるわね」
鬼課長……?
「課長。鬼課長と呼ばれているのですか?」
「えぇ、本人に聞かれたら怒られるけど
社内では『義足の鬼課長』と異名を持つのよ」
義足の……鬼課長?何それ?また凄いネーミングよね。
私は、不思議に思っていたら今井さんが、詳しく分かるように説明してくれた。
「実はね。周りは、すでに知られているけど。日向課長の右足は、義足なのよ。
事故で右足の一部を切断したらしくてね。今は、義足をつけて生活をしているの。
それに怖いってことで、義足の鬼課長って言われているのよ!」
あぁ、なるほど……それで。
さすがに課長が義足だと言うのは驚いたけど、だから右足を庇うように歩いていたのかと納得する部分もあった。
事故で……右足の部分を切断か。
私も事故で怪我をして部活を引退した。
普段の生活には、問題ないけど昔のようなタイムは、もう出すことはできない。
無理に走れば痛みもあってそれが辛くて辞めた。
それより酷い怪我をして切断したって、どんな気持ちだったのだろうか?