武道場の近くにある教室へ俺と尚は入る。ここは技術部の部室だが、今日は部活の日ではないため誰もいない。

「うう……。ッああ!!」

俺は子どものようにしばらく泣き続けた。体は大げさなほど震え、息も上手にできない。尚は俺の肩に優しく触れていた。

やっと発作が落ち着き、尚が「大丈夫か?」と訊ねる。俺は「わからない」と言った。

辛い記憶は、どんな時に思い出されるかわからない。突然思い出すので、いつだって驚いてしまうのだ。

でも、今回はあの白鴎高校の相手が言った言葉が原因だ。それはよくわかっている。

「俺、被災したけど地震とか津波が一番ショックだったんじゃないんだ」

尚に言っていなかったことがある。俺は椅子に座り、少しずつ話してみることにした。

「被災して、避難所で生活することになって、たまたま遺体が置かれている場所に行ったことがある。そこで見た光景がショックだった……。初めて気づいたよ。男も女も、子どももお年寄りも、遺体になればただの肉の塊になるって……」