「ずっと気になっていたんですが……」

と、宮端さんが神妙な顔で言う。

「どうした?」
「春川さんって、中津中学出身ですよね?」

ピタリと私の足が止まった。

中津中学は私と真月が卒業した中学校だ。高校、大学、就職と悲しい思い出が多い地元を離れた場所を選んだから、小さな町の公立中学の名前なんて知らない人が多いはずだ。

「……そうだけど。どうして?」
「私も同じ中学出身なんですが、私の従兄弟が春川さんの同級生で、春川さんの名前を耳にしたことがあって……」

まさか、地元の人が会社に来るなんて……。
もしかして、宮端さんは事故のことも知っている?

「隠していらっしゃるみたいですが、八幡主任も同じ中学ですよね」
「そうね。会社中の八幡ファンの怒りを買うから皆には内緒にしてね」

もちろんです、八幡主任はモテますからねと宮端さんが強く頷いた。

「じゃあ、春川さん。野上麻子もご存知ですか?」

野上麻子。
私の親友。真月の恋人。

ホワイトデーの日、突っ込んできた乗用車と背後の噴水に挟まれ亡くなった。

入社してきた宮端さんが亡くなった麻子そっくりで驚いたのだった。

「麻子ちゃんは、私の従兄弟なんです。私の母と麻子ちゃんの母が双子の姉妹なんです」

……従兄弟。
何となく似ているのも血の繋がりのせいなのか。

「麻子の従兄弟なの?どうりで似てるなぁと思ってた」
「麻子ちゃんのご両親からもよく言われます」

宮端さんを盗み見る。

背格好とかちょっと癖っ毛な髪とか、エネルギッシュなところとか。

麻子が今も生きていたら、こんな大人になっていたのかなって、あり得ない未来を想像して胸がキュッと切なくなった。