アキラさんは私が注文したストレートのウイスキーを飲む。喉仏がゆっくりと動く。

「アサちゃん。俺、今の関係を解消したい」

いつか告げられると思っていた終わりの合図。今更傷つかない。
私が結ぶこの“中途半端な関係”は相手の心の傷を癒すため。悲しみの雨に打たれた相手がもう一度旅立つための雨宿りの時間だから。

だから終わりがあるのを分かっている。彼がもう一度人生を始めるための終わりだから。

「そうですね。貴方にはこんな関係似合わない」
「アサちゃんも似合わないよ」
「そんなことないです」
「そんなことあるんです。アサちゃん」

沢山のひとと関わってきた。姉が 言う“中途半端な関係”というもので。

似合わないなんて言われたことなんてない。

みんな、最後には『ありがとう』と言って去っていく。
たった一人、もう15年間もそばにいるあの男以外は。

「君が何か抱えているのは分かっていた。でも俺にはそれが何なのか分からない」

私が抱えているもの。
15年前、突然終わりを告げた忘れることができない初恋。
親友と恋人を同時に失った。私が殺した……。

「でも、そんな君の傷ごと俺は受け止めたいと思う。

……アサちゃん。俺との今の関係をやめて、恋人として一から始めないか?

俺はアサちゃんが好きだ」

『もう放っておいてよ!』

心配してくれた姉の手を振りほどいた私。

『心くんが守ったのってあの子だって』
『どうせなら、あの子が死ねば良かったのに』

私を守って死んだ心くん。
私のワガママで、事故に巻き込まれた麻子と。
恋人も親友も夢さえも失った真月。